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| 屋上の温水プール |
建物の中はかなり広く、入ってすぐに男女別れるロッカーがある。脱衣所の脇には結構立派な大浴場風なものがあり、早速服を脱ぎ捨てて走り寄りたい感情を抑えて、水着に着替え、その上にフロントでもらったTシャツと短パンをはき、旦那の待つ2階へ出向く。2階はフードコート、サウナと休憩場があり、早速腹ごしらえをする。1ポンド$12とかなり割高のバイキングではあったが、クオリティの高さにびっくりする。コーンとカニのサラダも、韓国風ピリ辛おそばも、チキンとアスパラのごまサラダもうまい。ちょっとヘルシーなメニューに旦那はげっそりしていたが、私は大満足でランチを終えた。
ランチの後、旦那の方を伺うと、フロントでもらったはずのシャツも短パンもはいていない。どうしたのかと尋ねると、着るタイミングが分からないという。「タイミングってなんだよ。」少々呆れながらも、まぁいいかと、一緒に入れる屋上の温水プールへ向かおうとすると、やっぱりロッカーに戻って着てくると言い出す。メンドクセーと思うがすぐに行ってくると行って聞かず、そそくさと階段を下りていった。数分して戻ってきた旦那と共に屋上へ。ニューヨークは、前の日に雪が降っており、屋上にもかなりの雪が積もっている。そのうえ吹きさらしの屋上は、一瞬でカラダの芯まで冷える程の風が容赦なく吹き付けてくる。はやいところあったかいお湯に飛び込まなければ風邪を引いてしまう。もらった制服(?)を脱ぎ捨てて水着になり、飛び込もうとする私を旦那はきょとんとした顔で見つめてくる。「What?」あまりの寒さに自分で自分を抱きしめながらその場駆け足で旦那の方を向くと、彼氏はさっき、制服に着替えた時に自分の海パンを脱いできたという。「その制服でお湯に入るつもりでいたの?」クルーレスにもほどがある。だってとか意味が分からんとかブツクサ言う彼に、「私1人で入ってるから早く着替えてきな」イラダチを隠そうともせずに言い放つと、私は彼の返事も待たずに踵を返した。
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| これにやられた。 |
「...」ヌルい。確かにお風呂という習慣のあまりないアメリカでは、これくらいの温度で、お風呂というより浅いプールに近い感覚の方があっているのであろうが、それにしてもヌルい。あげくに最近のキックボクシングのせいで多少体重が落ちたのか、去年の夏ちょうど良かったはずの水着がブカブカである。2ピース上下どちらもかなりおかしい。上から制服を着た時にはそう感じなかったが、歩く度に下のスカートがずり落ちるし、ジャグジーの、泡のでる方へ近寄ろうものなら、上の方は誰にも望まれないポロリは必至である。リラックスもなにもあったものじゃない。プールの隅でおとなしく旦那の戻るのを今か今かと待っていると彼氏はようやく現れた。プールの反対側に、勢い良くお湯のでる”滝”があるから行きたいというので、歩いているうちに素っ裸になって周りに迷惑をかけないように、用心しながら水着をおさえて行ってみると、何人か”滝”に肩や首をうたれてキモチ良さそうにしている。なるほど、これはいいかもしれない。やってみたいけど眼鏡をどうしようかと悩む旦那を尻目に、早速滝の下に入るも、お湯がいっこうに出て来ない。見れば、蛇口の脇にボタンがあり、それを押すとお湯が出る仕組みになっているようだ。ボタンを押して、首を傾げ、肩を出すが、お湯はそれでも出て来ない。おかしいな...もう1度ボタンを押し、それでもウンともスンともいわないので、蛇口を覗き込んだ瞬間に、「ゔっ」勢い良く出た水に顔面を嫌という程打ち付けられる。後ろで旦那の大爆笑が聞こえる。こんなドリフみたいなことが実際に起きるとは思わなかったが、水着が無事だったのがせめてもの幸いである。「あっちに檜風呂がある!」私はその場から逃げるように立ち去った。
しばらく檜風呂を堪能した後は、下へ下りてサウナに入ることにする。温度によっていくつかのサウナがあるが、真ん中位の温度のサウナを選び、腰を下ろす。「あ゛−」少し目でも閉じてリラックス...と思ったら旦那に肩をつつかれる。「What」愛想なしに振り向くと、サウナで眼鏡はイヤだから、ロッカーに置いてきたいという。置いてくればいいじゃんと言うと、眼鏡を外したら何も見えなくなるから、ロッカーの入り口まで迎えにきてくれと言ってきた。「はぁー?!」迷惑千万である。迷惑千万とさえ言ったかもしれない。てゆうか言うなら座って落ち着く前に言えー!!私は憮然として立ち上がると、後ろの旦那の方には目もくれずに出口へと急いだ。眼鏡を外して戻ってきた旦那の手を引き、再度サウナに挑戦する。しかし5分もしないうちに旦那のわざとらしいため息が聞こえる。しばらく無視を続けたが、敵も諦めない。「今度は何ですか」嫌味たっぷりに質問すると、暑いしつまらないと言いやがる。殴り掛かりたい衝動を拳を握りしめて抑えつけると、「俺は出てるから好きなだけ入ってれば?」そう言う顔は、私を見ていない。真隣にいる嫁の姿も見えず、かわりに知らない人に話しかける程の視力でどうやってここから出てロッカーまで行くというのか。やれるもんならやってみろと言いたいのをグッとこらえて、私は再び彼の手を引くと無言でロッカーの方へと歩いた。
眼鏡をかけ直して戻ってきた彼とこれからについて話し合う。私は何としてもロッカーの脇の大浴場に入りたい。旦那と1時間半後に待ち合わせをすると、私はロッカーへと走った。大浴場にもサウナがある。リベンジとばかりに入って腰を落ち着ける。しばらくすると、「Body Scrub」つまりあかすりのサインが目に入る。かなりやってほしい。30分、$50をフロントで払い、大浴場の脇で待っていると、韓国人のオバチャンがやってきた。上下黒の総レース下着である。オバチャンは、びっくりして声もでない私の手を引き、風呂場の脇のあかすりコーナーへと歩いていき、プラスチックのベッドに横たわるよう促す。誘うような、真っ赤な色のベッドに横になると、オバチャンは私の上に覆い被さった。言っておくが、ここは女性専用の風呂場であるために水着は許されておらず、私は素っ裸である。そこへ、頼んだといっても上下黒レースのオバチャンが自分の上に覆い被さってきたら軽くパニックである。思わずぎゅっと目をつぶると、細長いタオルを目に当てられ、きつめに目隠しをされた。目はもう見えないが、オバチャンが私の脇で準備をしている気配がする。ここで使っている石鹸なのか、オバチャンからはいいにおいがする。もうこうなったらまな板の上の鯉である。自分で申し込んでおいてなんだが、まさかこんな展開になるとは思わなかった。ドキドキする私をよそに、オバチャンはそれこそ車でも洗うような感じで私のカラダをこすりはじめた。
あかすりのコーナーといっても、風呂場の隅の少し奥まった所に設備があるだけで、別に壁やしきりがある訳ではないので、お風呂に入っている人の声がすぐそこで聞こえる。風呂も何種類かあるので、小さな子供が「ママー、今度はこっちに入りたい!」と、無邪気にはしゃぐ声も聞こえてくる。目が見えないだけに周りのことが余計に気になる。土曜の昼間から、真っ赤なベッドに裸で寝かされて、黒レースのオバチャンにカラダを預けていると思うと、もういてもたってもいられない。あかすりそのものはキモチがいいので余計にタチが悪い。真っ赤になって唇を噛み締める私をよそに、オバチャンは私をあられもない体位にして責め立てる。かなりドギマギしてきたころ、オバチャンは私の顎をつかむと、クイッと持ち上げた。
「え...」あまりの驚きに声が漏れてしまうが、聞こえたのかどうか、オバチャンは私の首を丁寧にこすっている。あー、そういうことか。オバチャンは苦笑する私をクルリと横にすると、今度は後ろから抱き締めた。
身を堅くする私の脇腹をこすると、今度は逆向きにひっくり返される。咄嗟に魚市場のマグロを思い出す。キツく縛られた目隠しのおかげで何も見えないのには変わりがないが、オバチャンが動く度に彼女の胸が私の腕にあたる。私は今まででこんなに気まずい思いをしたことがあっただろうか。オバチャンを突き飛ばして走り去りたい気持ちとの、葛藤の居心地の悪いことと言ったらない。自分の精神にダメージを与えるために$50払ったようなものである。それにしても、オバチャンはことあるごとに私の顎をつかんではクイッともちあげてくる。これで最後の会計で壁に手をドンっとつけられた日には、私は彼女に交際を申し込んでしまいそうである。背徳感満載の心を持て余しているうちに作業は終わり、最後に髪を洗ってもらって終了となった。日本であかすりをしてもらったときとは全く違った体験だったが、どちらの方が主流なのであろうか。シャワーをしっかり浴びて、少し熱めの風呂を選ぶ。やはり日本人にちょうどいいと感じる温度はこちらの人には熱すぎるらしく、その湯船につかるのは私しかいない。手足をゆっくり伸ばして肩に触れるとびっくりする程スベスベしている。ホッとした気持ちで風呂場の時計を見ると、約束の時間まであと15分である。私は慌てて立ち上がると、脱衣所へと急いだ。
待ち合わせのロビーにでると、旦那の姿が見えない。約束の時間までにはまだ少しあるが、私の方が早く出るなんてあるわけがないと思い、電話をかけてみるとすぐにつながった。「車寄せてあるから」彼はもうとっくに出て車を取りにいっていた。ビルから出て車に乗り込むと、どうだったと聞かれる。オバチャンとの体験談を話すには疲れすぎている。「I had a good time.」曖昧に笑って旦那の方はどうだったと聞くと、1時間半後と約束して私と別れてすぐに、彼は風呂に入ることをせずにビルを出て、今まで車で待っていたという。怒ったらいいのか、呆れたらいいのか、それとも、まぁ、なんて優しいんでしょうと目を輝かせたらいいのか分からない。普段一緒に行動しない理由を思い出す。火照ったカラダを冷まそうと車の窓を少し開ける。帰りの車から、そろそろ陽の沈みかける町並みが見える。その時初めて自分のカラダがオバチャンと同じ匂いがするのに気がついた。


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